生成AIを使った副業でも、仕事を受ける以上は業務委託契約を結ぶことになります。とはいえ契約書を一字一句読み込むのは現実的ではありません。ここでは、受注前に押さえておくと後のトラブルを減らせる5つの項目を、公正取引委員会が示しているフリーランス法の考え方も踏まえて整理します。
まず「取引条件が書面で示されているか」を見る
公正取引委員会のパンフレットによると、フリーランス・事業者間取引適正化等法(2024年11月1日施行)では、発注事業者に取引条件の明示義務が課されています。明示すべき項目として挙げられているのは、業務の内容、報酬の額、支払期日、発注事業者・フリーランスの名称、業務委託をした日、給付を受領する日、給付を受領する場所などです。
つまり、口頭やチャットの一言だけで作業を始める状態は、本来の形ではありません。契約書という体裁でなくても、発注書やメールでこれらが文字になっているかを最初に確認してください。示されていなければ、着手前に書面で出してもらうよう依頼するのが自然な流れです。
なお、この法律が適用されるかどうかは、発注側・受注側がそれぞれ「従業員を使用しているか」などの条件に当てはまるかで変わります。すべての取引に一律で適用されるわけではないため、自分のケースが該当するかは公正取引委員会の公式情報で確認してください。
受注前に決めておきたい5項目
1. 成果物の範囲と「完成」の定義
生成AIを使う仕事では、ここが最も揉めやすい部分です。記事なら文字数と本数、画像なら点数と解像度といった量だけでなく、どの状態になったら納品完了とみなすのかを決めておきます。
2. 修正の回数と範囲
「修正は無制限」の状態で受けると、作業量が読めなくなります。◯回までを料金内とし、それ以降は別途見積もりとする、といった線引きを最初に置いておくと、あとから切り出しやすくなります。
3. 報酬の額と支払期日
同パンフレットでは、支払期日について「発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日」に設定し、期日内に支払うことが求められています。月末締め翌々月払いのような条件を提示された場合は、この考え方と照らして確認しておくと判断しやすくなります。
4. 生成AIの利用可否と、その明示
納品物の制作に生成AIを使ってよいか、使った場合に申告が必要かは発注側によって方針が分かれます。あとから「AIで作ったとは聞いていない」となる事態を避けるため、受注時点で確認し、記録の残る形でやりとりしておくのが安全です。
5. 権利の扱いと秘密保持
納品物の権利がいつ移転するのか、実績として公開してよいのかを確認します。あわせて、受け取った資料をどう扱うかも重要です。発注元の資料を生成AIに入力する場合、その可否は契約と各サービスの規約の両方に関わります。
条件が揃わないまま進めないための順番
実務では、契約書の確認より先に作業の話が進んでしまいがちです。順番を固定しておくと防ぎやすくなります。
依頼内容を聞いた段階で、まず成果物の範囲と修正回数、報酬と支払期日を文字にして返します。この時点で認識のズレが出れば、着手前に調整できます。具体的な聞き方はAI副業のクライアント対応|認識ズレを防ぐ確認の進め方で扱っています。
次に、権利とAI利用の可否を確認します。ここまで揃ってから着手する、という順番にしておくと、作業を始めたあとで前提が覆る事態を減らせます。
会社員が副業で受ける場合の注意点
会社に在籍しながら受注する場合は、契約内容以前に勤務先のルールを確認しておく必要があります。副業そのものの可否だけでなく、競業にあたらないか、届出が必要かといった点は会社ごとに異なります。詳しくはAI副業を始める前の就業規則チェック|会社との折り合いのつけ方を参考にしてください。
また、業務委託として受けた報酬は給与とは扱いが異なります。年間の所得によっては申告が必要になるため、契約を結ぶ段階から記録を残しておくと後が楽です。この点はAI副業の収入と確定申告|会社員が最初に押さえる基本で整理しています。
まとめ
業務委託契約で見ておきたいのは、成果物の範囲と完成の定義、修正の回数、報酬と支払期日、生成AIの利用可否、権利と秘密保持の5点です。フリーランス法では取引条件の明示義務が定められており、これらが書面で示されているかどうかが最初の目安になります。
ただし、どの規定が適用されるかは契約内容や当事者の要件によって変わります。一律に該当すると決めつけず、判断に迷う場合は公正取引委員会の公式情報を確認するか、専門家に相談してください。
受注の入り口づくりから見直したい場合は、AIでクラウドソーシング案件を受注するには|提案文と単価の考え方もあわせてどうぞ。
よくある質問
契約書がなくメールだけでも大丈夫ですか?
フリーランス法で求められているのは、書面または電磁的方法で取引条件を明示することです。契約書という形式に限られるわけではなく、メールなど記録の残る方法で業務の内容・報酬の額・支払期日などが示されていれば条件を満たす形になります。逆に、口頭やその場限りのやりとりだけで進めるのは避けたほうが安全です。
生成AIを使ったことは必ず伝えるべきですか?
法律で一律に義務づけられているわけではありませんが、発注側の方針によっては利用を制限している場合があります。あとから問題になるのを避けるため、受注時に利用の可否を確認し、その回答を記録に残しておくのが現実的です。制限がある場合は、どの工程まで使ってよいかまで確認しておくと安心です。
支払期日はいつでも60日以内になりますか?
公正取引委員会のパンフレットでは、発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に設定することが示されています。ただしこれはフリーランス法が適用される取引についての考え方で、当事者の要件によって適用の有無が変わります。自分の取引が対象かどうかは公式情報で確認してください。
受注後に作業範囲が増えたらどうすればいいですか?
当初の合意にない作業が出てきた時点で、いったん止めて条件を確認するのが基本です。追加分の報酬と納期を文字にして合意してから進めます。最初に成果物の範囲と修正回数を決めておくと、この線引きがしやすくなります。曖昧なまま引き受け続けると、単価が実質的に下がっていきます。

