社内のマニュアルや議事録を生成AIに読ませて、質問に答えさせたい。そう考えたときによく出てくるのがRAGという言葉です。技術の名前なので身構えてしまいますが、やっていること自体は「調べてから答える」というだけで、理解するのに専門知識は要りません。この記事では、RAGが何をしている仕組みなのか、なぜ社内文書と相性がよいのか、うまくいかないときに何が起きているのかを、非エンジニア向けに整理します。
RAGとは「調べてから答えさせる」仕組み
RAGはRetrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)の略です。生成AIに質問を投げる前に関連しそうな文書を検索し、その中身を質問と一緒に渡してから答えさせる、という手順を指します。
人にたとえるとわかりやすいかもしれません。就業規則について聞かれたとき、記憶だけで答えるのではなく、就業規則のファイルを開いて該当箇所を読んでから答える。RAGがやっているのは、これと同じことです。生成AIは渡された文章を読み取るのが得意なので、適切な資料さえ渡せば、それに沿った回答を返しやすくなります。
なぜ社内文書にはRAGが使われるのか
モデルに覚えさせる方法との違い
生成AIに自社の情報を反映させる方法としては、モデル自体を追加学習させるファインチューニングもあります。ただ、社内文書は更新が頻繁です。規程が変わるたびに学習をやり直すのは、運用として現実的ではありません。
RAGは参照する文書を差し替えるだけで内容が反映されるため、更新への追随がしやすいのが利点です。「先月改定した規程で答えてほしい」という要求に、ファイルの入れ替えだけで対応できます。
どこを根拠にしたかを示せる
もう一つの利点は、回答の根拠になった文書をあわせて提示できることです。生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく書いてしまうことがありますが、参照箇所が併記されていれば、読んだ人が原典に当たって確かめられます。社内で使う仕組みほど、この確認のしやすさが効いてきます。
RAGの流れを3ステップで見る
1. 文書を分割して検索できる形にする
まず、対象の文書を数百字から千字程度のかたまりに分割します。そのうえで、それぞれのかたまりを意味の近さを比較できる数値の並び(ベクトル)に変換して保存します。この保存先はベクトルデータベースと呼ばれます。
2. 質問に近いかたまりを探す
利用者が質問すると、質問文も同じ方法で数値に変換され、保存済みのかたまりのなかから意味の近いものが選ばれます。キーワードの完全一致ではなく意味の近さで探すため、「有給はいつから使える?」という質問で「年次有給休暇の付与」という見出しの箇所を拾える、といった動きになります。
3. 探した文章を添えて答えさせる
最後に、選ばれたかたまりの本文と元の質問を一緒に生成AIへ渡し、この資料の範囲で答えるよう指示します。ここまでがRAGの一連の流れです。特別なことをしているというより、検索と生成を順番につないでいるだけ、と捉えると理解しやすくなります。
うまく答えられないときに起きていること
RAGを試して「思ったほど正確でない」となる場合、原因の多くは生成AIそのものではなく、その手前の検索側にあります。よくあるのは次のようなケースです。
- 元の文書に答えが書かれていない(そもそも探しようがない)
- 分割の仕方が合わず、表や箇条書きが途中で切れている
- 似た文書が複数あり、古い版が選ばれてしまう
- 社内特有の略語が使われていて、質問文と文書の言葉が噛み合わない
いずれも、文書の側を整えることで改善が見込める問題です。RAGを導入すると決まったとき、最初にやるべき作業は実は文書の棚卸しだった、という話は珍しくありません。文書を整える進め方は生成AIで業務マニュアルを作る手順|属人化を解消する書き方のコツも参考になります。
非エンジニアがRAGを知っておくと役立つ場面
自分で構築しない立場でも、仕組みを知っていると判断が変わる場面があります。ベンダーの提案を聞くときに、どの文書を対象にするのか、更新はどう反映されるのか、回答の根拠は表示されるのか、といった質問ができるようになります。逆にこうした前提が曖昧なまま導入を進めると、運用が始まってから文書整備のコストが表に出てきます。
また、自分が書く社内文書の側にも影響します。見出しを立てる、略語に正式名称を併記する、更新日を明記する。こうした書き方は人にとって読みやすいだけでなく、検索で正しく拾われる文書にもつながります。
まとめ
RAGは、生成AIに調べてから答えさせるための仕組みです。モデルを学習し直さずに最新の社内文書を反映でき、根拠を示しやすいという点で、業務利用と相性のよい方法といえます。一方で回答の質は元の文書に強く左右されるため、導入を考えるなら、まず対象文書の状態を確認するところから始めるのが現実的です。
生成AIを実際の業務に落とし込む具体例は、生成AIを営業活動に活かす|商談前後の作業を減らす使い方や実務活用の記事一覧もあわせてご覧ください。
よくある質問
RAGとファインチューニングはどちらを選ぶべきですか?
更新の頻度が判断の目安になります。規程やマニュアルのように内容が変わり続ける情報はRAGが向いており、文書を差し替えるだけで反映できます。一方、回答の文体や形式を一貫させたい場合はファインチューニングが検討対象になります。両方を組み合わせる構成もあるため、まず何を解決したいのかを先に決めるのが近道です。
RAGを使えば生成AIの誤りはなくなりますか?
減らしやすくはなりますが、なくなるわけではありません。渡した資料の解釈を誤ったり、資料に書かれていない部分を補って書いてしまうことはあります。示された根拠を確認する運用は、RAGを使う場合でも引き続き必要です。重要な判断に使う回答ほど、原典に当たる手順を残しておきましょう。
社内文書を読ませるとき、情報漏えいは心配ありませんか?
利用するサービスの規約で、入力したデータが学習に使われるかどうかを確認する必要があります。法人向けプランでは学習に利用しない設定が用意されていることが多い一方、条件はサービスごとに異なります。あわせて、誰がどの文書にアクセスできるかという権限設計も、導入前に決めておきたい項目です。
小さな規模でも試せますか?
試せます。まずは数十ファイル程度の範囲に絞り、よく聞かれる質問に答えられるかを確かめる進め方が現実的です。最初から全社の文書を対象にすると文書整備の負荷が大きく、検証が止まりやすくなります。狭い範囲で成果を確認してから広げるほうが、社内の合意も取りやすくなります。

