新しい商品の企画や提案の前段には、市場や競合を調べる工程が必ず入ります。時間はかかるのに成果が見えにくく、後回しになりがちな作業でもあります。生成AIはこの工程の一部を短縮できますが、任せ方を誤ると事実と違う内容がそのまま資料に載ってしまいます。この記事では、生成AIに任せる部分と自分で確認する部分を分けたうえで、リサーチを進める手順を整理します。
リサーチの何が生成AIで変わるのか
市場調査の作業を分解すると、「観点を決める」「情報を集める」「整理して意味を読み取る」「まとめて共有する」という流れになります。このうち生成AIが力を発揮するのは、観点出しと整理・要約の部分です。
一方で「情報を集める」工程、特に最新の数値や企業の動向については、生成AIの出力をそのまま信用できません。学習データの範囲外の出来事は反映されておらず、もっともらしい形で誤った情報が出力されることもあります。ここは従来どおり一次情報にあたる必要があります。
得意な工程と苦手な工程を切り分ける
得意:観点の洗い出しと整理
「食品メーカーが新商品を企画するとき、競合分析で見るべき観点を挙げてください」といった問いには、生成AIは短時間で幅広い候補を出せます。自分では思いつかなかった切り口が含まれることも多く、抜け漏れのチェックとして有効です。集めた情報を表形式に整理したり、長い資料を要約したりする作業も得意分野です。
苦手:最新の事実と数値の確定
市場規模、シェア、競合の価格、直近の資金調達といった具体的な数値は、生成AIに聞いて確定させてはいけない情報です。出典を尋ねると存在しない資料名が返ってくることもあります。数値は必ず官公庁の統計、業界団体の資料、企業のIR情報や公式サイトなど、確認できる一次情報から取ってください。生成AIの誤りの性質については生成AIの答えを鵜呑みにしないで詳しく整理しています。
リサーチを4ステップで進める
ステップ1:調べる目的と問いを決める
最初にやるべきは、生成AIを開くことではなく、何のために調べるのかを一文にすることです。「競合を調べる」では範囲が広すぎます。「自社より低価格な競合3社が、どの層に向けて何を訴求しているかを知りたい」まで絞ると、その後の作業が具体的になります。この工程は自分で行ってください。目的が曖昧なまま生成AIに投げると、当たり障りのない一般論が返ってくるだけです。
ステップ2:観点を洗い出す
目的が決まったら、生成AIに調査の観点を出させます。業界・商材・調べたい目的を伝えたうえで「見るべき観点を10個」といった形で依頼し、出てきた候補から必要なものを選びます。ここで得た観点が、そのまま情報収集のチェックリストになります。
ステップ3:一次情報を集める
観点ごとに、自分で情報源にあたります。官公庁の統計、業界団体の調査、企業の公式サイトやIR資料、決算説明資料などが基本の情報源です。集めた資料は、出典とURL、公表年をセットで記録しておきましょう。後で数字の根拠を聞かれたときに答えられなくなるのが、リサーチで最も困る事態です。
ステップ4:整理して結論を書く
集めた情報を生成AIに渡し、観点ごとの表に整理させます。このとき「渡した資料の範囲だけで答え、書かれていないことは『記載なし』としてください」と条件を付けると、勝手な補完を減らせます。整理された表を見ながら、何が言えるのかという結論部分は自分で書きます。
整理した内容を社内文書の形に落とし込む作業も生成AIで効率化できます。手順は生成AIで業務マニュアルを作る手順の考え方が応用できます。
こうした業務での使い分けを体系的に学びたい場合は、実務向けのコースを持つスクールで型から身につける方法もあります。
出力の精度を上げる依頼の型
同じ内容を尋ねても、伝え方によって出力の質は変わります。リサーチ用途では、次の4つを盛り込むと結果が安定します。
- 立場:誰の視点で考えてほしいか(例:食品業界のマーケティング担当)
- 目的:何のために使う情報か(例:新商品の企画会議で使う)
- 制約:使ってよい情報の範囲(例:添付した資料の内容のみ)
- 出力形式:どんな形で欲しいか(例:観点・現状・出典の3列の表)
特に「制約」は重要です。範囲を指定しないと、生成AIは学習データから記憶を補って書き足そうとします。「資料に書かれていない項目は空欄にしてください」と明示するだけで、確認の手間が大きく減ります。依頼文の基本的な組み立て方は生成AIのプロンプト入門も参考になります。
使うときに気をつけたいこと
実務で使ううえで、押さえておきたい点が3つあります。
1つ目は、出典の確認です。生成AIが挙げた資料名やURLは、実在しない場合があります。必ず自分でアクセスして、その内容が本当に書かれているかを確かめてください。
2つ目は、社外に出せない情報の扱いです。未公開の売上データや取引先の情報を外部のAIサービスに入力してよいかは、社内規程を確認する必要があります。会社が契約している環境と個人アカウントでは、入力データの扱いが異なることもあります。
3つ目は、出力を「たたき台」として扱う姿勢です。整理された表が出てくると完成したように見えますが、そこから何を読み取り、どう判断するかは人が担う部分です。
まとめ
生成AIは市場調査の全工程を代行するものではなく、観点出しと整理・要約という前後の工程を短縮する道具です。目的を決めるのと、一次情報にあたって数値を確定させるのは、引き続き自分の仕事になります。この切り分けさえできれば、調査にかかる時間は確実に短くできます。まずは次のリサーチで、観点出しだけを生成AIに任せてみるところから始めてみてください。
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よくある質問
Web検索ができる生成AIなら、最新の数値も任せられますか?
検索機能付きのサービスは情報が新しくなる分、精度は上がります。ただし参照先が個人ブログやまとめサイトのこともあり、情報源の質までは保証されません。示されたURLを開いて、公的機関や企業の公式資料かどうかを自分で確認する工程は省かないでください。
調査した資料をそのままAIに読み込ませても問題ありませんか?
公開されている資料であれば技術的な問題はありませんが、社内規程の確認は必要です。特に有料のレポートや契約に基づいて入手した資料は、第三者のサービスへの入力が利用規約で制限されている場合があります。社外秘の情報を含む場合は、会社が契約している環境を使うのが基本です。
どのくらい時間を短縮できますか?
短縮できる幅は調査の内容によって異なるため、一律には言えません。ただ、観点の洗い出しと集めた情報の表への整理は、手作業に比べて明らかに早く終わります。一方で一次情報を確認する工程は減らせないので、調査全体がゼロになるわけではないと考えておくのが現実的です。
リサーチ以外の業務にも同じ考え方は使えますか?
使えます。「観点を出す・形式を整える」は生成AIに任せ、「目的を決める・事実を確認する・判断する」は自分で行うという切り分けは、資料作成や議事録、メール作成など多くの業務に共通します。まずは失敗しても影響の小さい業務から試してみるとよいでしょう。

